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分離すべり症とは?原因・診断方法・治療法を専門医が徹底解

分離すべり症の症状・診断・治療をわかりやすく

背中や腰の痛みで悩む方の中には「分離すべり症」という病気を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
分離すべり症は、特に若いころに発症しやすく、大人になってから症状が現れるケースもあります。
この記事では、エビデンスに基づく最新の診断・治療ガイドラインをもとに、分離すべり症についてやさしく、わかりやすく解説します。


【分離すべり症とは?症状と原因】

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分離すべり症は、「すべり症」とも呼ばれる背骨の病気のひとつです。
背骨(脊椎)はいくつもの骨(椎骨)が積み重なってできていますが、その中の腰の部分で、椎骨が本来の位置から前方にずれてしまう状態を「すべり症」と呼びます。
特に「分離すべり症」とは、背骨の「椎弓(ついきゅう)」という部分が疲労などで細かく割れてしまい、その結果、椎骨がずれる病気です。若いころのスポーツ、運動によって生じる疲労骨折が「分離症」の原因となります。分離部が骨癒合せず、偽関節となってそのまま中高年になると不安定性により「すべり症」を生じます。

L5分離機能写.JPG

この椎弓の異常を「分離(ぶんり)」、そして骨がずれることを「すべり」と呼び、あわせて「分離すべり症」と言います。医学英語では「isthmic spondylolisthesis」と呼ばれます。

【分離すべり症の主な症状】

分離すべり症の代表的な症状は、以下の通りです。

  • 腰の痛み(腰痛)
  • 足のしびれや痛み(坐骨神経痛など)
  • 長い距離を歩くと足がだるくなる、しびれる(間欠性跛行)
  • 稀に筋力低下や排尿障害などの神経症状が出ることもある

特に大人になってから症状が強く現れることが多いです。
症状は、椎骨のずれによって神経が圧迫されることで起こります。

【原因と発症のしくみ】

L5分離CT.JPG

分離すべり症の多くは、10代のスポーツなどによる腰への繰り返しの負荷で、椎弓部分に疲労骨折(ストレスフラクチャー)が起こることがきっかけとなります。
多くは「L5(第5腰椎)」という腰の一番下の部分で起こります。

また、両側の椎弓が分離している場合、40~66%の患者さんで椎骨のずれ(すべり症)に進行することが分かっています。
一方、片側だけの分離では、すべり症に進行することはあまりありません。
【参考:Fredricksonら、Beutlerらの長期調査】


【分離すべり症の診断方法と画像検査】

分離すべり症の診断では、問診や診察、画像検査が重要です。

【診察でわかること】

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  • 脚を伸ばしたまま上げる検査(SLRテスト)で痛みやしびれが出ることがある

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  • 腰を反らすと痛みが出やすい
  • しかし、触診などで明確に診断する根拠は十分ではない

ガイドラインでは、診察だけで確定診断は難しいとしていますが、「脚の神経を引っ張る検査(SLR)」が陽性になる方が約半数いることもわかっています。

【画像検査のポイント】

最も基本となるのは「立位(立った状態)のレントゲン(X線)写真」です。

L5分離斜位像.JPG
正面や横からだけでなく、斜め(オブリーク)や動かしながら撮ることもあります。
レントゲンで椎骨のずれや、椎弓の分離があるかを確認します。

L3分離CT.JPG

  • レントゲンで診断が難しい場合、CT(コンピュータ断層撮影)検査が有効です。特に椎弓の分離の有無を詳しく調べるのに役立ちます。L5分離MRI.JPG
  • 脚のしびれや痛みが強い場合はMRI(磁気共鳴画像)検査を行い、神経が圧迫されていないか、椎間孔(神経の出口)が狭くなっていないかを確認します。

また、MRIは分離すべり症と加齢によるすべり症(変性すべり症)を区別する目的では、現時点でははっきりした推奨はありません

 

【画像診断での特徴】

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  • 分離すべり症の患者さんは、骨盤の角度(骨盤傾斜や仙骨傾斜)、腰椎前弯(腰のカーブ)が一般の方よりも大きい傾向があります。
  • ただし、画像上でのずれの程度と、症状の重さとの関係は明確ではありません。

【分離すべり症の治療:保存療法から手術まで】

分離すべり症の治療は、大きく保存療法(手術以外の治療)と手術療法に分かれます。

【保存療法(手術をしない治療)】

ガイドラインでは、薬や装具(コルセット)、物理療法(リハビリ)、神経ブロック注射などについて、十分な科学的根拠があるとは言えないとされています。

しかし、軽症の場合や、日常生活に大きな支障がない場合は、まず保存療法が一般的です。

【保存療法の主な内容】

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  • 痛み止め(消炎鎮痛薬)や神経障害性疼痛薬の内服
  • コルセット装着
  • 物理療法や運動療法(ストレッチや筋力トレーニング)
  • ブロック注射(分離部ブロック、神経根ブロック、硬膜外ブロックなど)

ガイドライン上では、リハビリや運動療法についても十分なデータがなく、推奨度は「不十分」とされています
長期的な経過や予後も、まだ研究データが不足しています。

【手術療法】

症状が重い場合や、保存療法で十分な改善が見られない場合には手術が検討されます。

【主な手術方法】

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  • 除圧術(神経の通り道を広げる手術)
  • 後方椎体間固定術(背骨を金属や骨移植で固定する手術)
  • 360度固定術(前方・後方両方からの固定術)
  • 最小侵襲手術(小さい切開や内視鏡を使う手術)

【どんな手術法が選ばれる?】

  • 不安定性のある分離すべり症では、固定術や360度固定術が臨床的に効果があるとされています。後方椎体間固定術(PLIF)が後方から直接除圧と辷りの矯正固定ができるために多くの病院で行われています。
  • 360度固定術は、X線上の骨癒合(骨がくっつく率)が高いですが、症状の改善において他の術式との優劣ははっきりしていません。
  • 骨のずれを無理に戻す(矯正)か、そのままの位置で固定するかについても、現時点では明確な結論は出ていません。

【手術の補助器具(インストゥルメンテーション)について】

  • 金属のインストゥルメントを使うことで固定の強度は上がり、骨癒合率は上昇します。

【前方固定(ALIF)や低侵襲手術について】

  • ALIF(前方固定術)は、椎間孔の狭窄(神経の出口の圧迫)を間接的に広げる方法として選択肢となります。
  • 小さい切開で行う低侵襲手術は、従来の大きな切開手術に比べて、手術時間や出血、入院期間が短いというメリットがあると示唆されています。

【手術の長期成績】

  • 分離すべり症に対する手術療法は、長期的にみて症状の改善が期待できるとガイドラインで示されています。
  • ただし、「どの手術方法が一番よいか」「運動療法と比べてどうか」などについては、十分な根拠が得られていません。

【合併症や他の背骨のゆがみがある場合】

  • 脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)や他の背骨の変形が同時にある場合については、まだ十分なデータがありません。

【まとめ:分離すべり症のガイドラインをふまえて】

分離すべり症は、背骨の一部が疲労骨折し、椎骨がずれてしまう病気です。
多くの場合、腰痛や足のしびれなどの症状が現れます。
診断にはレントゲンやCT、MRIなどの画像検査が重要であり、症状や重症度に応じて治療方法が選ばれます。
現時点では、保存療法・手術療法ともに明確な「これが一番良い」という根拠は十分ではありませんが、手術が必要な場合には複数の選択肢があります。

症状が気になる方は、専門の整形外科や脊椎外科を受診し、自分に合った治療方針を相談しましょう。
今後も新しい研究結果や知見により、分離すべり症の治療に対するさらなる進歩が期待されています。


【引用論文】

  • D. Scott Kreiner, Jamie Baisden, Daniel J. Mazanec, Rakesh D. Patel, et al.
    Guideline summary review: an evidence-based clinical guideline for the diagnosis and treatment of adult isthmic spondylolisthesis, The Spine Journal (2016), http://dx.doi.org/10.1016/j.spinee.2016.08.034

 

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